最近、非上場株式の評価について、2つの大きな事件がありました。
1つは、仙台薬局事件 (東北薬局事件とも呼ばれます)で、もう1つは会計検査院から「株価計算は安くなりすぎる」という指摘があったことです。それぞれ概要を解説いたします。
1、仙台薬局事件
東北地方で約50店舗を経営するドラッグストアの創業社長が生前にM&Aを計画していた。その際の基本合意価格は1株約10万円であった。ところが、基本合意契約後に突然亡くなり、相続人が株式を相続した。相続後に売買契約がまとまり、当初の合意通り1株約10万円で売却した。その後の相続税の申告では、財産評価基本通達に基づき、1株約8,000円として計算した。
その後税務調査により、財産評価基本通達6項「著しく不適当と認められる財産」として、1株約8万円で更正処分があった。納税者はこの処分を不服として裁判となった。最終的に、東京高裁で納税者勝訴となり、国税は上告を諦め、判決が確定した。
判決文を抜粋・要約すると、以下の通り
①生前の基本合意の時点では、売却は未確定だった
(デューデリジェンスやリーガルチェック完了は相続後だった)
②相続税の節税を目的とした積極的な行為はなかった
③1株約8万円という金額に明確な根拠がない
2、会計検査院からの指摘
非上場株式の評価については、問題点が多数あって安く評価されがちなので、見直しをした方がよい。具体的な問題点は以下の通り。
①純資産価額に対して類似業種比準価額が低すぎる
②特に大会社ほど類似業種比準価格は安くなりがち
③類似業種比準価格の構成要素である配当は80%の会社が払っていない
④そもそも評価方式の大枠がバブル前に決まっていて、今の時代に合っていない
詳細を知りたい方は、令和5年度決算検査報告の概要 | 最新の検査報告 | 検査結果 | 会計検査院 Board of Audit of Japan の
(9)特定検査対象に関する検査状況の580ページ以降をご覧ください。
これは近いうちに非上場株式の評価について大きな改正があると思われます。最近の動向だと、会計検査院からの指摘事項は改正されやすいです。相続税の取得費加算が売却した土地だけになったり、住宅ローン控除の割合が0.7%に引き下げられたり、不動産業や保険業の簡易課税の経費割合が下げられたりしたのは全部会計検査院のせいです。電信柱が高いのも郵便ポストが赤いのも会計検査院のせいかもしれません。
個人的には、株式評価が高くなるのは反対です。もともと非上場株式は換金性が非常に低いので評価が安く抑えられてきた経緯があります。創業社長が急に亡くなることは往々にしてあります。その時の相続税の負担が重いと、会社存続の危機であり、地域経済や雇用も不安定になります。反対に、株価が上がるほど事前の相続税対策の効果がより大きくなり、やったもん勝ちの世界になってしまいます。税理士としては腕の見せどころなんでしょうけど、相続という誰にもわからないタイミングで明暗分かれるのは違和感を覚えます。