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「毛利の三本の矢」という逸話をご存知でしょうか。「矢は一本では折れてしまうが、

三本束ねれば折れない」。

武将の毛利元就が３人の子を前に、一族の結束を説いたお話です。しかし現実は、

なかなかこのような美談にはなりません。今日はあらぬ方向を向いてしまった

「三本の矢」についてお話しします。

 

「私は大学に行っていない。でも、あんたは行かせてもらったよね。それに親と一緒に

マンションを建てて、その最上階でぬくぬくと暮らして。お嫁に行った私が、嫁ぎ先で

どんな思いをしていたか、あなたには分からないでしょうね！」

開口一番、次女が、弟である長男にこのように吐き捨てました。長女も、それに

同意したように大きく頷きます。

「家を継いだなんて時代錯誤なことを言って、とにかく調子に乗らないで。結局、

店を畳んだダメ経営者じゃない？店を壊して建てたマンションの家賃で、のうのうと

生きているあなたの一人勝ちにはしないわよ」

「何を！お前は親父の店がどれだけ赤字で、オレがどれだけ従業員を守るために

苦労したか分かっているのか？」と長男が反論します。「介護だって大変だったんだぞ！」

などと、そこからは延々と罵詈雑言の水掛け論です。専門家としては、よくあることながら

毎度毎度 聞くに堪えません。

相続のお医者さんをやっていて、一番つらいことは、実際の家族げんかに立ち会うことです。

「実家に帰って、遺影の前で好きなだけやってくれ」と心の中では強く思うのですが、

ご縁のある方の場合はそうもいきません。一見さまの無料相談なら、15分で終わらせて、

とっととお帰りいただければいいのですが、例えば税理士を紹介している場合など、

遺産分割協議が長引くと紹介先に迷惑をかけるような場合はむげにはできないのが現実。

税理士も10ヶ月以内に遺産分割協議が終わらない場合は、法定相続分で一旦申告すると

いうだけ、というのが教科書的な回答にはなります。しかし、実際はそんなにドライには

進まないのです。

相続人それぞれが、私たち専門家に必死に食らいついてきます。

「ここはどう反論したらいいですか？」「これは法的におかしいですよね？」

「金額をパターン別に試算してくれませんか？」

それぞれが、「相手に突き刺さる矢」を準備しようと奔走します。私たちは、憎みあう家族の

「負の感情」にまきこまれ、精神を削られる毎日になるのです。

亡くなった方が、生前に自分が相談を受けていた方だった場合は、合わせて「自分の後悔」も

重く肩にのしかかります。「なんでご病気になる前に、遺言書を書かなかったのですか？

あれほどおすすめしたのに」と、手を合わせながら、故人に溜め息をつきたくなることも

しばしばです。

 

コメント

遺言書というのは、「書いたら家族がもめない書類」ではありません。

「もめても手続きが先に進む書類」です。

ただ、この「手続きが先に進む」という力がどれほど大事か、多くの人が分かっていません。

遺言書のない遺産分割協議は「全員の意見が一致する」まで続きます。「多数決」では

ありません。

この「全員一致」がどれだけ難しいものなのか、私たち相続支援コンサルタントは

これからも力の限り、世の中に発信していきます。

「毛利の三本の矢」は、普通であれば、美しい家族愛と団結力の話として捉えられる逸話かと

思います。

しかし、兄弟姉妹が持っているのは「矢」という鋭い刃物。それが家族に突きつけられることだって

あるのです。

この逸話が、「毛利の三本の箸」とか「物干しざお」とかだったら、もしかしたらもっと平和なお話に

なったかもしれません。

矢を束ねるどころか、お互いに向かって「言葉の矢」を射かけ合う姉弟。その姿を薄目で見ながら、

半分思考を止めて、そんなことを夢想する今日この頃です。