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賢い生前贈与のススメ③

2022.03.15

前回は、「暦年贈与」と「相続時精算課税制度」のそれぞれの特徴とその違いについて解説しました。今回は暦年贈与で押さえておくべきポイントと注意点についてお伝えします。

 

正しい「暦年贈与」のやり方とは?

今年も残すところあと数力月になりました。年の瀬が近づくにつれてお問い合わせが増加するのが「暦年贈与」についてです。「贈与は年間110万円までは無税」という贈与の今年の基礎控除が使えるのは、12月31日の贈与実行分までです。この110万円の基礎控除は来年に持ち越すことができません。今年贈与をご検討している方は、正しい方法を学び、年内に実行しましょう!

ポイント①

 もらう側が「もらった」という認識をもつ

皆さまは、贈与の度に財産を受け取る方への意思確認を行っていますか? 実は、この確認がとても重要です。なぜかと言うと、贈与は契約だからです。財産をもらった方(受贈者といいます)に「財産をもらった」という認識がないと、贈与が成立しないことになるからです。贈与が成立していないということは、〝贈与をしたつもりになっていただけ〟ということになるので、その財産はあげた人(贈与者)のもの、ということになります。

この「あげた」「もらった」という意思の合致がないまま行われた預金を「名義預金」といいます。名義預金は、名義はもらった方になっているけれども、実態はあげた方の財産ということで、相続税の課税対象になってしまいます。

厄介なことにこの名義預金には時効がありません。例えば、数十年にわたって子どもの銀行口座に110万円ずつ現金を移していたとしても、子どもの方に贈与を受けている認識がないと、その数十年間行った贈与は無効(そもそも贈与になっていない)ということになってしまいます。

 

ポイント②

 あげた、もらったの証拠を残す

先述した通り、贈与は意思の合致が行われて成立する契約です。そのため書面がなくても意思の合致があれば成立はするのですが、後々(多くは相続発生時に)意思の合致があったのだと証明するために、贈与が正しく行われた証拠を残しておくことが必要不可欠です。そのための3つの方法を解説いたします。

①確定日付の「贈与契約書」の作成

皆さまは「贈与契約書」を作成したことがありますか? 贈与する日付や金額が書いてある契約書に、あげる人ともらう人の双方が署名捺印をしたものです。この契約書を備えることで、それぞれが贈与の内容に合意をしている、イコール意思の合致があった、という証明になります。

ただしこの贈与契約書は、あげる人ともらう人が協力すれば過去にさかのぼって書類作成ができてしまいます。そこで、贈与契約書の証拠能力を確実なものにするために、〝確定日付を付与〟してもらいましょう。

確定日付の付与とは、公証役場で公証人から、日にちが記載されている印鑑を押してもらうことです。〝押してもらったその日に、その文章が確かに存在していた〟という強力な証拠になります。

毎年、贈与契約書を作成し、公証役場に出向き、確定日付を付与してもらう、というのは少し面倒かもしれませんが、この書類を残しておくことで、税務署の税務調査の際、贈与の成立に疑いの余地がなくなりますので安心です。ただし、もらう側の署名捺印を、あげる側が代筆したり、記載内容に不備があったりすると元も子もありませんので、正しい記載を心がけてください。不安な方は専門家への相談をおすすめします。

②現金の贈与は「口座振込」で行い、

通帳にメモ書きを残す。

現金の贈与を「手渡し」で行う方が多くいらっしゃいます。口座振込だと手数料がかかることや、現金を直接渡すことで、もらった方にとってのありがたみが増す等の理由があります。しかし、現金の贈与は、あげる側の口座からもらう側への口座振込をおすすめします。そのメリットを要約すると次の通りです。

●もらう側の通帳に、あげた側の名前が載るため、誰からもらったのかが明確になる。

●あげた日、もらった日が同日になり、かつ通帳に明確に記載される。

では、細かく見ていきましょう。口座から現金を引き出して渡しただけでは、何に使ったのか、誰に渡したのかがわかりませんし、もらった方がその現金をその日に銀行口座に入金するとは限りません。もらった方が自宅の金庫で保管していたら、贈与が行われたことを証明するのは至難の業です。

一方、口座振込は、通帳に振込の印字がされます。その印字の横で構いませんので、あげた方、もらった方それぞれが、この振込は贈与であるというメモ書きを残しましょう。備忘録になるのはもちろん、それぞれが書くことで、あげた、もらったの意思があったということにもなります。少しかかる振込手数料も、贈与においては安心料と考えられるのではないでしょうか。

ポイント

つまり口座振込をおすすめする一番の理由は、証拠が残るということです。

注意点は、現金を振り込んだ通帳と印鑑の管理は、もらった方に行ってもらうことです。あげた方が管理をしていると、これはあげた方の財産ですね、ということで「名義預金」になってしまうからです。

③もらった人が贈与税の申告を行う。

あえて110万円の基礎控除を超える財産を贈与して、税務署に贈与税の申告を行い、贈与の事実をつくるという方法もあります。例えば120万円の贈与を行うと、贈与税は1万円です。贈与税を申告、納付することで贈与があったということをあえて知らせ、証拠にするというものです。

ここで注意していただきたいのが、正しい贈与税の申告方法です。贈与税の申告は、もらった方が行わないといけませんが、あげた方が贈与税の申告を行っているケースがとても多く、それでは両者の意思の合致があった証明にならないという問題があります。贈与契約書もそうですが、書類への筆跡や印影が誰のものかは一目瞭然ですし、もらった方への聞き取り調査が行われたら、もらった方が「受け取ったという認識がない」ことは容易に分かってしまいます。

ポイント

贈与に大切なのは、とにかく「あげた」「もらった」の意思の合致と、その証拠を確実に残す、ということです。

 

「贈与って結構手間がかかるものだな」とお思いの方もいらっしゃるのではないでしょうか。そこで次回は、なぜそれだけ手間をかけないといけないのか。相続や贈与の際、税務署がチェックする税務調査のポイントについて見ていきます。どうぞお楽しみに!

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