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コラム「遺言執行」

2021.06.20

「遺言執行」は、遺言者の想いを実現するために必要な手続きを行う、というお仕事ですが、大変難しい業務の一つです。

今回は、なかなか一筋縄ではいかなかったご家庭の例をご紹介します。

 

「御社の相続セミナーに参加して、父に遺言書を書くことを勧めたのは私です。その遺言書の写しを姉や兄に送ってしまうのですか。納得できません。なぜ、私の味方をしてくれないのですか?」と、遺言執行者である当社に抗議されたのは、先日、お父様を亡くされたご家庭の次女でした。

遺言執行者として、しばしば直面するのがこの問題です。亡き父と同居していた次女夫婦からのご依頼で、余命数年と宣告されたお父様と私がお会いしたのは2年前。次女夫婦が、何度も私のセミナーを受講し、家族で考えた末での訪問でした。

「お父さん、遺言書を書かれますか?」

「そうだねえ。長女と長男は病院に見舞いにも来ないし、貸したお金も返してくれない。今一緒に住んでいる次女に、家とかある程度まとめて渡したいしねえ。じゃあ、お願いします」

私はその場で、お父様と作成支援の契約を結び、今後の大まかな流れと「遺留分」について説明。A銀行の通帳は長女、B銀行の通帳は長男、それ以外は次女、というのが大まかな遺言書の内容でした。そして「遺言執行」についても説明し、お父様のご希望で遺言執行者は身内ではなく当社が引き受けることになりました。

遺言執行の業務内容・執行報酬・就任の手順・執行の手順などは、次女夫婦が同席のもと、一通りご説明をしています。しかし、次女夫婦の記憶には、都合の良いところしか残らなかったようです。

「姉や兄に遺言書の写しを送ったら、私が父の遺産の大部分を相続するのがわかってしまうじゃないですか!」

「後日、財産目録を全員に送付するって何ですか? 私が相続する銀行口座の金額まで明記する必要ないでしょう? 目録は私にだけ見せて、姉と兄には通帳だけ送ってください!」

遺言の内容を相続人に通知すること(民法1007条)や、財産目録を作成し相続人に交付すること(民法1011条)は、どちらも遺言執行者の義務であり、行わないわけにはいきません。何より大前提として、遺言執行者はすべての相続人に対し、平等に接しなければならないのです。

最後に次女は「あんなにやり取りしたから、私に肩入れしてくれると思っていたのに、がっかりしました」と言い残して、残念ながら立ち去っていきました。

 

コメント

このケースでは、遺言を書かずに遺産分割協議していたほうが良かったのでしょうか。それとも、次女が遺言執行者になったほうが良かったのでしょうか。私はそうは思いません。

私が「お気持ち分」だけでもよいので、遺言書作成後に少しだけでも追加入金するようにとお勧めした「A銀行」と「B銀行」には、遺言書を書いた時と同じ少額の残高しかありませんでした。当然 長女と長男からは「遺留分」についての質問があり、私は執行者として、一つひとつ質問にお答えしました。

あれから次女からの連絡はありません。その後、どのように終わったのかは伺ってはいませんが、天国のお父様がこの様子を見た時、深くため息をつくような結果になっていないことを願うばかりです。

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