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「家族信託の相談窓口」コラム “争族”を避けるために知っておくべき相続手続きのポイント

2021.05.24

人が死亡して相続が発生した場合、相続手続きを行なう必要があります。しかし、「相続」が「争族」になってしまうと、相続手続きを進める際に支障が出てしまいます。そのため、「争族」を避けるための方法を事前に把握しておかなければなりません。

この記事では、「争族」を避けるために知っておくべき相続手続きのポイントを解説していきます。争族が発生するきっかけや避けるための対策方法を詳しく知りたい方は、参考にしてみてください。

 

争族とは相続の際に相続人の間で争いが起こること

相続のことを、「争族」と呼ばれる場合があります。争族とは、相続が発生した際、親子や兄弟などの相続人の間で争いが起こっていることを揶揄する言葉です。

相続手続きは、相続人全員で進めていくのが原則です。遺言書がある場合など一部例外もありますが、基本的に相続人の間で話し合いがまとまらないと、相続手続きをスムーズに進められません。したがって、「相続」が「争族」になってしまうのは、被相続人(死亡した方)にとっても相続人にとっても好ましくないのです。

「相続」が「争族」になってしまうのは、被相続人の保有財産が高額であることによるものだと考える方もいるかもしれません。しかし、被相続人の保有財産がそれほど高額ではなくても、「相続」が「争族」になってしまうケースも多いです。

裁判所の司法統計のデータによると、2019年に成立した遺産分割調停事件総数7224件のうち、2448件は被相続人の保有財産が1000万円以下でした。さらには、被相続人の保有財産が5000万円以下になると、その数は5545件(2448+3097)と全体の約76%になります。(※)

一般的な家庭の場合でも「相続」が「争族」となる可能性があるのは、上記のデータによっても示されています。そのため、どのような方でも、相続手続きの際、「相続」が「争族」とならないように注意しなければなりません。

 

「相続」が「争族」になるきっかけ

「相続」が「争族」になってしまうのには、何かしらのきっかけがあります。そのきっかけを把握しておくことで、「相続」が「争族」になることを防げるケースも少なくありません。そこで、「相続」が「争族」となる要因について、いくつか見ていきましょう。

相続財産の内容がきっかけで争族になる

被相続人の保有財産の内容によって、相続人の間で争いが生じるケースも多いです。たとえば、相続財産の内訳が、自宅の土地建物だけだったとします。このような場合、複数名の相続人の間で平等に分割することが困難です。なぜなら、不動産はそのままの状態で平等に分割することはできないからです。

相続人の間で不動産を平等に分割するためには、処分して現金化する必要があります。不動産を処分して現金化するためには、相続人全員で売却手続きをしなければならないのが原則です。しかし、相続財産である不動産をその後も使用したいと考える相続人がいる場合、その相続人は不動産を処分することに対して難色を示します。その結果、不動産の処分について相続人の間で対立が起こり、「相続」が「争族」に発展してしまうことがあるのです。

また、相続財産である不動産を処分できない場合、特定の相続人に相続させて、その相続人が他の相続人に対価を支払う形で手続きを進めることが考えられます。ですが、この方法でも、対価の額や支払い方法について相続人の間で対立が起こり、「相続」から「争族」になるケースもあります。

相続人同士の関係や相続関係がきっかけで争族になる

当初から相続人同士の仲が悪くて「相続」が「争族」になるときも多いです。このような場合、些細なことで争いになるケースもめずらしくありません。

たとえば、当初から仲の悪い相続人Aと相続人Bがいて、相続人Aが相続発生前から被相続人の財産を管理していたとしましょう。相続発生後、相続人Aが相続手続きを進めるため、相続財産の内容を相続人Bに伝えたとします。後にまた被相続人の財産が見つかり、その旨を相続人Bに知らせたとしましょう。その際、相続人Bが相続人Aのことを必要以上に疑い、それがきっかけで相続財産の内容について争いが生じてしまうこともあります。

また、被相続人の配偶者と兄弟姉妹が相続人となるケースも「相続」から「争族」になりやすいです。家庭によっては、被相続人の兄弟姉妹が配偶者に対して「相続財産を分けなければ相続手続きに協力しない」旨を主張してくる可能性も否定できません。さらに、相続開始前に被相続人の配偶者と兄弟姉妹の間でトラブルがあり、その遺恨がきっかけで争族に発展したケースもあります。

特別受益の有無や寄与分の主張がきっかけで争族になる

相続発生前に被相続人から財産を譲り受けたり、資金援助を受けたりした相続人がいる場合、特別受益の有無が要因で争族になる場合があります。特別受益とは、相続発生前に相続人が被相続人から受けた経済的な利益のことです。

特別受益の存在がある場合、その分を相続財産に加算した上で各相続人の相続分を計算するのが原則です。相続分を計算する際、相続財産に特別受益を加算するか否かで各相続人の相続できる割合が変わってきます。そのようなことから、特別受益の有無で相続人の間に争いが生じてしまうのです。

また、相続発生前から被相続人を介護していた相続人が、寄与分を主張して争族になるケースもよく見られます。寄与分とは、被相続人の財産の維持または増加に貢献した相続人が、その分を法定相続分に加算した割合の財産を相続できる制度です。

相続人の介護で介護費用の出費を抑えられると被相続人の財産が維持されるため、寄与分が認められる可能性もあります。もし、寄与分が認められると、その相続人の相続割合が多くなる半面、他の相続人の相続割合が少なくなります。そのようなことから、相続人が寄与分を主張することで、相続人の間で争いになるケースもあるのです。

争族を避けるためには生前対策がカギ

スムーズに相続手続きを進めるためには、争族発生を予防することが大切です。争族を避けるためには生前対策がカギになります。そこで、争族を避けるための生前対策方法について、いくつか解説していきましょう。

遺言書を残しておく

被相続人が生前に遺言書を作成しておくことで、争族発生を予防できます。遺言とは、自身の死後の財産承継を定める旨の意思表示のことで、その内容を定めた書面が遺言書です。特定の相続人に相続させる旨の内容を遺言書に定めておけば、相続人全員で相続手続きをしなくてもよくなります。その結果、争族発生を防ぐことができるのです。

遺言書の種類は複数ありますが、その中でもよく利用されているのが自筆証書遺言書と公正証書遺言書です。自筆証書遺言書とは、自筆で作成した遺言書を言います。一方、公正証書遺言書とは、公証役場で公証人に作成してもらう遺言書です。法律の専門家である公証人の関与の下で作成された公正証書遺言書は、法的な不備が生じにくいです。そのため、遺言書を作成するのであれば、公正証書遺言書にするほうが好ましいでしょう。

また、遺言書を作成する際、各相続人の遺留分を侵害しない内容のものにすることが大切です。遺留分とは、法律上で相続人に保障されている最低限の相続分を言います。遺留分を侵害する内容の遺言書を作成すると、後に相続人の間で遺留分侵害に関する争いが生じるケースもあるので注意しましょう。

生前贈与を活用する

生前贈与を活用することで、相続発生前に特定の相続人へ自身の財産を承継させることが可能です。それにより、争族発生を予防することができます。贈与税の配偶者控除や相続時精算課税制度など贈与税の負担を軽減する方法もあるので、生前贈与は争族対策として有効な手段の一つです。

生前贈与を受けた相続人は、相続手続きの際に特別受益者と扱われるケースも少なくありません。しかし、特別受益の持戻し免除の意思表示をしておけば、相続手続きの際、生前贈与分を含めずに相続分の計算をすることになります。したがって、生前贈与で特定の相続人へ財産を承継させる場合、遺言書を作成して特別受益の持戻し免除の意思表示をしておいたほうがいいでしょう。

家族信託を活用する

争族発生の生前対策方法の一つに家族信託の活用もあげられます。家族信託とは、家族間で行なう財産の信託行為のことです。

たとえば、父親が自分の財産を息子に管理してもらいたい考えがあるとしましょう。この場合、父親と息子が信託契約(定めた目的に沿って財産の管理や処分してもらう契約)を締結します。その際、信託契約の当事者の内容は、委託者兼受益者が父親、受託者が息子と定めます。上記内容の信託契約を締結することによって、息子が財産の管理や処分を行ない、それによって得られた権利や利益を父親が享受することになるのです。

家族信託を活用するための信託契約では、信託行為の内容や当事者だけではなく、契約終了事由およびその後の財産の帰属者も定めます。上記の例で、信託契約の終了事由が父親の死亡、契約終了後の財産の帰属者が息子と定めておけば、父親の死亡と同時に息子へ財産を承継させることが可能です。そのため、相続人の間に争いが生じているときであっても、家族信託を活用すれば特定の相続人へスムーズに財産を承継させることができます。

生前に遺産整理をしておく

生前に行なう遺産整理が、争族発生の予防につながるケースも少なくありません。被相続人の相続財産の内容を明確にしておけば、相続発生後、相続人の間で平等に財産を分割しやすくなります。相続財産の内容が不明確であると、争族発生につながる可能性も高くなります。そのため、スムーズに相続手続きが進められるように、生前に遺産整理をしておくことが大切です。

なお、遺産整理を行なう際、財産目録を作成しておくといいでしょう。財産の所有者自身が作成した財産目録があれば、各相続人も相続財産の内容に疑いを持たなくなるため効果的です。

争族発生の要因の把握と生前対策が問題解決につながる

「相続」が「争族」になってしまうと、状況によっては相続手続きを進めることが困難となるケースもあります。そのためには、争族を避けるためのポイントを把握しておくことが大切です。

争族が発生するきっかけは、相続財産の内容や相続人同士の関係などさまざまです。自身の相続手続きで争族が発生する要因があるか否かを事前に確認しておきましょう。また、争族発生を予防するための生前対策の方法も複数あります。これらをうまく活用して、円滑に相続手続きを進められるように準備しておくといいでしょう。

 

参考:

※ 令和元年の遺産分割事件のうち認容・調停成立件数(「分割をしない」を除く)
https://www.courts.go.jp/app/sihotokei_jp/list?page=4&filter%5Btype%5D=1&filter%5ByYear%5D=2019&filter%5ByCategory%5D=3

※ 遺産の内容別遺産の価額別 全家庭裁判所
https://www.courts.go.jp/app/files/toukei/307/011307.pdf

 

 

佐伯 浩之(司法書士)

自動車関係、広告関係企業勤務を経て、資格取得後に司法書士業へ転職。 2 か所の司法書士事務所に勤務して、約 4 年間、不動産・会社法人登記業務に携わる。 司法書士として独立後は、相続登記や相続放棄などの相続手続きを中心に司法書士業務を行なっている。

『このコラムの内容は掲載日時点の情報に基づいています。最新の統計や法令等が反映されていない場合がありますのでご注意ください。個別具体的な法律や税務等に関する相談は、必ず自身の責任において各専門家に行ってください。』

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