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いよいよ施行される「配偶者居住権」
2020.02.18
2018年の相続法改正により創設されることとなった「配偶者居住権」が、いよいよ2020年4月1日以降の相続開始分から施行されます。今回は改正のポイントをご紹介します。
「配偶者居住権」とは何か
相続が発生した際、被相続人の配偶者が一番に望むことは、引き続き住み慣れた自宅に住み続けることと思います。
夫が自宅5000万円と現預金5000万円を遺して亡くなったとします。相続人は妻と子です。母子が仲の良い場合は、子の承諾の元に母が全財産を相続することも可能でしょう。しかし、仲が悪かったり、亡夫の連れ子と継母だったりするとそうはいきません。法定相続分は2分の1ずつですから、母が自宅の相続を望めば現預金は全て子が相続することになります。逆に、「今後の生活費が心配だ」と母が現預金の相続を望めば、自宅は子が相続することになり、母は自宅を出ていかなければならなくなります。
そこで、改正相続法により「配偶者居住権」という新たな権利が創設されました。これは、被相続人の死亡から原則終身、遺された配偶者が自宅にそのまま無償で住み続けられる権利です。そのため、配偶者居住権を活用すれば、自宅の所有権を子に相続させ、妻(母)には終身住み続けられる権利だけを取得させることができるようになります。
ポイント
自宅不動産の権利を「所有権」と「居住権」の2つに分けて配偶者と子に各々取得させるという、遺産分割の新たな選択肢ができたのです。
この配偶者居住権は、一定の財産評価を受け、相続税の課税対象となります。評価方法は昨年の税制改正により以下の算式の通り決定しています。
詳細な計算はここでは省略し、考え方だけ例として示しておきます。
夫が遺した5000万円の自宅(建物+土地)について、妻が配偶者居住権を取得し、子が配偶者居住権付の自宅の所有権を相続するとします。配偶者居住権の評価額が仮に2000万円だとすると、子が相続した配偶者居住権付の自宅の所有権の評価額は3000万円(5000万円-2000万円)です。配偶者は評価額2000万円に対して、子は評価額3000万円に対して相続税を負担します。ただし、「配偶者の税額軽減」の適用によって、結果的にほとんどのケースで配偶者の相続税はゼロとなります。
さて、この妻(母)が数年後に亡くなります。配偶者居住権はその時点で消滅し、子は配偶者居住権の付いていない完全な自宅所有権を手にすることになります(二次相続)。売却も子が自由にできるようになり、売れば5000万円が子のものになります。一見すると妻(母)の死亡により子に経済的価値が移転したようにも思えますが、妻(母)が持っていた配偶者居住権は単に消滅しただけで子に移転するものではないと考え、相続税の課税は一切ありません。
一次相続で父から子に直接自宅を相続させれば、子は5000万円に対する相続税を負担します。また、父から妻(母)に自宅を相続させれば、二次相続時に子は母からその自宅を相続し同じく5000万円に対する相続税を負担します。ところが、配偶者居住権を経由すれば、子は一次相続時に3000万円に対する相続税を負担するだけで、二次相続時には相続税負担無しで完全な自宅所有権を取得することができるわけです。これで、「一次相続+二次相続」のトータルでの相続税は確実に軽減されることになります。したがって、今後は相続税の軽減を狙って配偶者居住権を積極的に活用しようという家庭が間違いなく出てくるでしょう。特に、「自宅の評価額が高い」「相続税の限界税率が高い」「遺される配偶者の年齢が若い」といったようなケースでの活用が、最も相続税軽減に威力を発揮します。
リスクを回避するために
ただし、活用のためには同時にリスク対策も必要です。配偶者居住権の最大のリスクは、配偶者居住権を取得した配偶者が、その後これを現金化したいと思った時に容易ではないという点にあります。例えば配偶者がその後に高齢者施設に入所することになっても、この配偶者居住権を現金化して入所するということが難しいのです。なぜなら、配偶者居住権は譲渡できないと民法で定められたからです。子と合意の上で配偶者居住権を消滅させて、子から金銭の支払いを受けるという手はありますが、子と合意できなかったり、子がそれだけの金銭を持っていなかったりする場合は実現不可能です。また、仮に合意して現金化できたとしても、税法上はやはり母から子への譲渡とされて母に譲渡税(長期所有で税率20%)が課税されてしまいます。
そこで生命保険を活用します。まずは夫が遺言で妻に配偶者居住権を取得させ、子に配偶者居住権付の自宅を相続させるように準備します。これで妻の居住確保と相続税の軽減が実現できます。それと同時に、夫が妻を受取人とする生命保険に加入します。夫が亡くなれば妻は配偶者居住権と生命保険金を取得しますが、前述の「配偶者の税額軽減」により妻の相続税負担は無くなります。しかも、保険金は受取人固有の財産という扱いのため、原則として遺産分割や遺留分の対象からは外れます。つまり、現預金で遺すよりもより多くの金銭を妻は手にすることができるのです。
ポイント
妻のその後の生活費や入所費用などに大いに役に立つでしょう。これなら、将来的に配偶者居住権を現金化することができなくても安心です。
配偶者居住権を取得させる方法は、「遺言書」「死因贈与契約」「遺産分割協議」「家裁の審判」の4つあります。最も確実なのは「遺言書」を活用する方法です。ただし、施行前の2020年3月31日以前に作成された遺言書によって、配偶者居住権を取得させることはできません。したがって、配偶者居住権を取得させたい場合は、2020年4月1日以降に遺言書を作成するか、作り直すしかありませんので、ご注意ください。
当サポートセンターでは、「配偶者居住権」も含めた改正相続法に対応した相続対策のご提案・ご支援を積極的に行っています。まずはお気軽にご相談ください。
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